トルコの事件

 学生時際にディベートの授業があって、自分が好きなことに関してみんなの前で発表をし、終わってからみんなの意見を頂戴するという流れだった。各自発表を聞いて、無記名で自分の意見を書いて、先生がランダムで意見を選び読み上げる。無記名だから正直な反応が多く見られ、それがすごく面白かった。
 で、その中にトルコが大好きな女の子がいて、当然トルコについての発表をした。当時の僕の知識としては
・トルコ人はみんな親日
・その始まりはトルコの船が和歌山に難破し、それらを助けさらに生存者をトルコまで送り届けた
という、歴史的なイイ話を知っているぐらいだった。そのため、その発表にちょっと期待をしていたんだけど、その女子が発表した内容は
・日本からトルコまで飛行機で何時間かかる
・スリに注意
・生水を飲んではいけない
という、ガイドブックの1ページ目に書いてあるような、いや、当たり前すぎてもはや記載すらされない、そんな内容だった。ガッカリした僕は当然、
「あんたはガイドブックか」
という一文だけを書き、紙を提出した。先生が次々と意見を読み上げるんだけどみんなやさしく、
「好きな気持ちが伝わった」
「トルコに行きたくなった」
とやさしい意見が多い中、僕は自分の感想が読まれないようにと祈った・・・。

 今回の事件が起きたとき、一番に思い出したのはこの女子の存在である。あいつじゃないよな、と一瞬思ったけど年齢が全く違うから別人である。被害者の女性はきっと、僕があの授業で聞いた注意事項を守っていたのだろうが、それだけでは足りなかったのだろう。いくら警戒をしても安全に対して細心の注意を払っても、悪意の矢がこっちに向いたら、無傷でやり過ごすのは難しいってことだ。それが海外なら、より難しいってことなのかな。被害者はもちろん、普通で親日であるトルコ人のことを思うとなんとも残念だ。