引き継ぐこと

 少し前に亡くなった親戚の家を訪れた。一度しか会ったことがなく、義理の両親のどっちの親戚だったのか良く把握していなぐらいの関係だったが、それでも家族である。自分から行きたいとは思わないが、そう悪いものもない、ってやつだね。
 その家は取り壊される予定になっていて、あちこちに荷物が散乱していた。転居先に必要なものだけを運んだ後の状態で、残っているものはすべて処分する事になっていた。1階のリビングには大量の書籍が乱雑に並べられている。亡くなった伯父さんの本で、次に日にはブックオフが取りに来ることになっていた。値段なんてつかないんだけど、捨てるぐらいだったら・・、ということだったらしい。どうせ持っていかれるんだから、欲しいのがあった持って行ってね~と言われ、色々と吟味してみた。
 本棚を見れば、その人のことがだいたいわかる。どういうことが好きで興味があったのか。こういう場所に行ったのか、それとも行きたかったのか。推理というか、想像とういか。そして並んでいる本をかき分けながら、知らない人のことを考えている自分に気づいた。不思議なもので、生きていたそんな事なんて考えもしないのにね。
 下の方に分厚く、かなり汚れている一冊があったので手に取ってみた。それは英和辞書で、昭和31年に出版された古いものだった。こんな古い辞書なんてみた事がないから、ペラペラとめくりながら色んな項目を読んでみたんだけど、今のものとそう違いは感じられなかった。が、ところどころに赤線が引いてあり、伯父さんが確実に使った跡があった。
 僕が生まれた向こうの文化では、先輩とか上の人から辞書をもらうという文化がある。高いものを皆で使いまわすという事もあるけど、前にこの辞書を使ってきた人たちがどういうものを調べ、勉強をしてきたのかを自分と比較することが出来て、それがいい事とされているんだよね。尊敬する、もしくは好きな人からもらった辞書なら、その人と自分を比べ、より良く勉強をしようとか、その辞書に対し恥ずかしくない存在であろうと思えるんだよね。というわけで僕はその辞書を頂いてきた。昭和31年だからもはや何世代も前の辞書だけど、まだまだ頑張ってもらって、より線を増やしていきたいと思う。