匂い

サッカー選手のオノシンジがオランダに移籍したときのインタビューが印象的で、未だに覚えている。正確に覚えているわけじゃないけど、
「この街はどうですか?」
ときかれ
「空気が気に入った」
と答えたんだよね。普通の言葉だけど僕はそれをきいて、オノシンジは成功するに違いない、と思ったのを覚えている。なんか、サッカー選手ならではの答えでもないし特別な言葉でもないけど、繊細な性格と言うか、優しげな人柄が表れている気がしたのだ。「空気が気に入った」には色んな意味が含まれていそうだし、実にいい答え方だと思った。
 たしかにいつもと違う場所に行くと空気の違いを感じる。「いつもと違う風景」は新鮮だし、知らない場所というのは刺激的だ。国内でもそうなんだから、国外ではなおさらだ。フランスに行ったときもやっぱり、音や匂いの違いを感じたし、それが旅の魅力だとも思う。
 少し前に、世界中を旅するバックパッカーの人の話をラジオでやっていた。その人は世界中を放浪して、少し日本に帰って金を稼いでまた海外に出る生活をしている。一年中を旅している人で、行った国は数知れずという、いわば旅のプロである。インタビュアーが当たり前の様に、
「何がそこまで旅に掻き立てるのですか?」
ときいたんだけど、
「んー、やっぱり空気の匂いや街の音が違うとこですかね。」
と答えていた。僕はもっと深くてカッコいい答えが来るのかなと期待していたけど、オノシンジの事を思い出して納得した。その人は、その音や臭いの違いを感じるためにだけでも海外に出るべきだ、とも言っていて、なるほどなあと思った。その国の宗教とか政治とか思想とは関係のない、最初に肌で感じるものが空気だもんね。数字や文字では表せないが、1番確かなものかも知れない。